富良野で農家る! 桃子のローカル日報
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籠の鳥は

日本列島を大きく渦巻くように、衛星写真は大きな雲を映し出しています。

富良野は風も雨も激しく、まだ洗い足りないとでもいうかのように、油気のない外観の我が家にまで

粒の荒い雨をたたき付けています。


かといって農作業が休みになることがないのはハウス栽培農家の宿命で、

泥や水がハウスに入らないように気を付けながら内装をしたり、苗を世話して植え付けたり、

植えたメロンの姿を整えたりします。


駆け出しのメロン屋たるもの、まだまだ晴耕雨読というわけにはいかないもので

小さな本棚のしたのほうで、春先までに読み残した本が渋滞したままです。

それでもうっかり図書館に寄ってしまうものだから順番は先送りに滑ってばかりいて、

背表紙の列が、さらに伸びました。

それらを読みたくて、新聞テレビの入り込む余地のない生活をしているのに、このていたらくです。


そしてメロンにとっては、晴れた日に作られた養分を使ってぐんと成長するときでもあります。

雨の日のメロンは、葉っぱや蔓が炎天下のごわつきを忘れたように明るい緑になり、

触った感じもふわふわとしています。みずみずしく、美しいです。

楽園の生き物というにふさわしい雰囲気で、

まだ苗のくせに、どういうわけかときどきメロンの香りをさせたりもします。


こうしてハウスがかかっているとはいえ、結局は雨の影響を避けることなどできないのです。

私共のメロンの根っこは地面に刺さっていますから、

雨で地下水位が上がっているときは土の中にふんだんに水気があるので、

ここぞとばかりに、水分をたっぷりと吸い上げます。

そんなときのメロンの手入れは、私どもにとっても気が気ではなく、

繊細そのものの葉っぱや蔓の先を傷つけないように、地面にピンを刺すのにもそっとそっと行います。

まだ小さいので、蔓の先が折れてしまうと実がならなくなってしまうからです。


そうしているうちに、散歩道の雪はどこにも見当たらなくなりました。

日ごとに麦畑は青く、人参畑は布で白く、スイカ畑はビニールの銀色に覆われていっています。

見上げれば、木々の枝先は赤く芽を吹き、

足元では、どさんこ犬の毛が少しずつ抜けてきました。

衣替えの時期は、大地も生き物もおなじです。

私どもは、そうしてこれからのむずむずした忙しさを思い起こされます。


そんな時期にいっそう、いま不安が不安を呼ぶ世間から、ときに嘆きの声もきこえてくるもので

つい心がささくれ立ちそうになりますけれども、

このタイミングだからこそ、私の心の中に仕舞ってあったこの力強い言葉のむれに再び目を向けてみたいと思います。



<日本国憲法前文より>

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われ らの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉 ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。



私にとって国家という大きな組織のことは与り知らないけれども、

その構成員であるということはどうにか解っていて、

メロン屋の女将としては、その最小単位である家族をはじめ、

メロンを求めて下さっている方々とのつながりを持ち続ける役目を負っています。

文中にある国家、国民、自国、他国、各国などということばは、どれも周りのごく小さな家族や、

友人達と分かち合っている関係、地域のつながりなど、身近な世界に読み替えることができるのではないかと思います。


形ある戦争の時代はとっくに過ぎていますから、

今や見えない圧力や侵略が、生活そのものに染み込んでしまっているけれども

その状態から、それでも一歩進んで行かなければならない、と日本国民は誓ってきました。

それがほんの建前だとしても、もう60年以上も前からです。


噛み締めた柏餅の葉っぱの香りの奥に

ほんの建前が、いま童話のなかの青い鳥のようにも感じられるこのごろです。

posted by momouyda | 20:45 | 雑記帳 | comments(0) | trackbacks(0) |
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